MEDICINE
麻酔科医は手術室の“パイロット”
10月13日は「麻酔の日」。世界初の全身麻酔を施した手術が日本で成功し、その日が10月13日だったことに由来します。AIが進歩する現代も、手術室で患者さんの命を守り続ける麻酔科医の役割と使命に迫ります。
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麻酔科

※本記事のイラストは生成AIを使用して制作しています

1846年10月16日に米国・ボストンのマサチューセッツ総合病院で歯科医のウィリアム・モートンがエーテルを用いて公開麻酔に成功したのが世界初の全身麻酔とされていますが、実はその40年以上も前の1804年10月13日に日本で外科医の華岡青洲がチョウセンアサガオを主として調合した“通仙散”を用いて乳がん手術に成功しており、これが記録に残る世界初の全身麻酔になります。これを記念して10月13日は「麻酔の日」として制定されています。
胃や腸などの手術は多くの場合、全身麻酔(意識消失を伴う麻酔方法の総称)で行われますが、では、全身麻酔を行うにはどのような薬が必要でしょうか?全身麻酔はただ眠っているだけではありません。
【全身麻酔に欠かせない薬】
・鎮静薬…意識をなくすための薬。
・鎮痛薬…手術の刺激に対して体が反応しないようにする薬。
【必要に応じて使用する薬】
・筋弛緩薬…手術中に体が動かないようにするための薬。
・循環作動薬…主に血圧を上げたり、心収縮力を増強したりする薬。
皆さんも眠っている時に痛いことをされると目を覚ますと思いますが、鎮静薬で意識がない状態を作っただけでは手術の刺激(意識があれば“痛い”と感じます)に対して体は反応(体動や血圧の急上昇など)しますので、決して安全な手術はできません。また、手術中は自力で十分な呼吸ができなくなり、血圧低下や心収縮能低下などをおこしてしまいますので、通常は人工呼吸器が必要になり、循環作動薬を使用することとなります。
このように、“手術に伴うあらゆる刺激(手術侵襲)から生体を守る”ことが全身麻酔の本質ということになります。
薬の効果には個人差がありますし、手術内容によっても手術侵襲の程度は異なります。また、各手術中も侵襲の程度がずっと一定というわけではありません。さらに心臓や肺に合併症を抱えている患者さんでは侵襲に対する予備能が少なく、より慎重な管理が必要になります。このように、患者さんの状態・手術の進行状況に応じて、適切な鎮静状態、呼吸循環状態を維持し、安全・円滑に手術を実施できるようにすることが麻酔科医の役割なのです。

かつては、全身麻酔は一般の方から怖いと思われることも多く、実際、呼吸が止まってしまうような薬を使用しているわけですので、一歩間違えると命にかかわることがあり得ることは事実です。こうした事故がおこらないように全身麻酔中は麻酔科医が絶えず監視を行うわけですが、生体モニターの発達により、近年の全身麻酔の安全性は非常に高くなっています。
手術中は心電図や血圧、パルスオキシメータ(コロナ禍で有名になりました)などの基本的なモニターに加えて、脳波モニターやより厳密な循環モニター、例えば、食道から超音波で心臓を観察するなどを行うこともあります。その他にもさまざまなモニターが開発されており、それらをうまく活用することで、より適切な全身管理を行うことこそが麻酔科医の腕の見せ所になります。こういったモニターを活用する上で、軽微な変化をより早期に検知するという観点からは、今後はAIを活用することでさらに質の高い麻酔管理を行えるようになることが期待されます。
麻酔科医の役割はよく飛行機のパイロットに例えられますが、飛行機の運行は今やほぼ自動操縦となっているように、安定した手術では将来的には“自動麻酔”も実現可能でしょう。ただし、どれだけ自動操縦の性能が上がってもパイロットが不要とは誰も思わないように、医療安全の観点からは麻酔科医の存在意義は将来的にも変わることはありません。不確定要素の多い医療現場では、「何かいつもと違う」といった状況に早期に適切に対応し、事故を未然に防ぐという点でも麻酔科医の役割は重要です。
皆さんご自身またはご家族が全身麻酔を受けることが今後あるかもしれません。その際には麻酔科医の診察を受けることになりますが、麻酔科医は患者さんの全身状態や手術内容も含めて総合的な評価を行った上でリスクについても説明を行います。麻酔科医はリスクを最小限にするように最大限努力していますが、残念ながら100%安全を保証することはできません。(これも飛行機の運航と同じです。)過度に怖れる必要はありませんが、正しく理解して手術に臨んでいただくことは非常に大切です。
医療者からの一言
外科系医師、看護師、臨床工学技士と十分な連携のもと、チームとして安全な周術期管理に取り組んでいます。何か不安なことがある場合は、是非、遠慮なく尋ねていただければと思います。
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医科研病院
麻酔科
外科、泌尿器科の手術を中心に年間約500症例の全身麻酔を担当しています。規模は大きくありませんが、担当医は全員麻酔科専門医で、患者さんが安心して手術を受けられるように、安全・快適な周術期管理を提供することを常に心がけています。
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